ウイスキー投資の流行
ニュースや広告などでご存じの方も多いと思いますが、ウイスキーの投資が流行っているそうです。
ネットでも、SNSサイトで広告を積極的に載せており、ウイスキーを安全性が高い資産だと旨を謳っている広告を私自信、頻繁に目にしていますし、各メディアでも取り上げられています。
確かに、ウイスキーのブームが加熱に加熱を重ねて、ウイスキーの値段が非常に高くなっているのは事実です。
私も、酒屋を10年以上運営させていただいていますが、日々、仕入れ価格が上がり続けていることに対して、危機感を持ち、目眩がするほど価格に驚かされることも少なくないです。
ですので、ウイスキー原酒を買い、それを樽のまま熟成させて、数年後に売却すれば、利ざやが出ますよ!儲かりますよ!というのがこの手の投資話なのです。
そして、現物資産だから安心・安全などと謳っているところもあるそうです。
そこまで安心・安全で効率よく儲かるなら、その事業を行っている会社が自分で銀行でお金を借りるか、出資を募って、自身で投資すれば良いのにと思うのは私だけでしょうか。
業者自身がウイスキー投資を行うことよりも、他人にウイスキー投資をさせて手数料をもらうビジネスをした方が、確実性が高くリスクが少ないから、そのような他人に投資をさせる事業が存在すると思うのですが、そう考える私がおかしいのでしょうか?
もしくは、業者が善意で、みんなを儲けさせてあげたいから行っている慈善事業なのでしょうか?
プライベートカスク(樽買い)について
また、ウイスキー投資が出る前から、プライベートカスクと呼ばれるウイスキーのカスクオーナー制度が、クラフト蒸溜所で行われており、熟成前のウイスキーを樽ごと販売し、数年後にボトリングしたものが送られてくるというサービスで、一般の方にはハードルが高いですが、マニアの方やウイスキー専門のバーの方には、かなりポピュラーになったかと思います。
このサービスは、ウイスキーを育てる楽しさを消費者と共有でき、ファンが増えるだけではなくて、蒸溜所としては資金繰りが楽になるという大きなメリットが存在します。
非常に誠実で、将来が有望であると考えられる蒸溜所もたくさんありますが、その一方で、ウェブサイトなどの資料を見てもあからさまに怪しげな蒸溜所や、悪評がたっている蒸溜所もあるようで、蒸溜所が行っている制度だからノンリスクだとは決して思わないで頂きたいです。
リスクに関して
言うまでもなく、ウイスキー投資やプライベートカスク(樽買い)にもそれなりにリスクがあって、
・エンジェルズシェアや樽の漏れどうなるのか?
・事故の発生時の補償はどうなるのか?
・投資の場合、買った価格より高くなるのか?
・プライベートカスクの場合、味が理想の味・好みの味になるのか?
・そもそもサービスの提供側が事業と法人が、数年後に存続しているのか?
などの主なリスクがぱっと思い浮かびます。
実際、私が知る限りでも、バーテンダーの方がプライベートカスクを買われて、数年後ボトリングしてみたら、当初の想定の本数よりも大幅に本数が減ってしまったと、樽を購入された御本人から直接伺ったことがあります。
それ以外にも、カスクオーナーに不利になるよう、契約の一部項目をカスクオーナーに同意なく変更された蒸溜所もあるそうです。
また、いくら現物があるからと言っても、それが本当なのか?事故の際にどう補償されるのか、されないのか?などについて、慎重に確認・検討されるべきです。
お金を出す前に見るべきポイント
私は、モルトヤマの事業だけではなく、自分自身で熟成庫を建て、T&T TOYAMAとしてジャパニーズウイスキーボトラーズ事業も行っていますが、蒸溜所からの原酒の購入を検討する際に共同経営者である稲垣さんとは、主に5つのポイントに注意して蒸溜所を見ています。
①設備と立地
・蒸溜所と熟成庫を建てる十分な敷地があるのか?拡張性もあるのか?
・コンテナが入る道があるのか?
・製造と冷却に重要な水が豊富にあるのか?
・排水を適正に処分できるのか?
・周りに民家はないか?
・熟成環境として適しているのか?
など
②品質と伸び代
・各製造工程において、品質がしっかりしているか?ポイントとなる数値を記録・管理しているのか?
・ニューポットの出来はどうか?
・どのように製造技術の向上や改善を図っているのか?
・見識のあるコンサルタントがついているのか?
など
③現場の作り手
・表情が明るく、やりがいを感じて働いているのか?
・製造の方は、もともとどのような仕事をされて、何をしていた方なのか?
・ウイスキーが好きなのか?
・ウイスキーに対する最低限の知識や経験があるのか?
など
④経営者とバックグラウンド
・経営者のバックボーンは?
・経営者の経歴は?
・経営者の人間性はどうなのか?
・どうやって蒸溜所を建設・運営する資金を捻出したのか?
・経営基盤が安定しているのか?
・なぜウイスキーなのか?
・どんなウイスキーが好きで、どんなウイスキーを造りたくて、収益をあげる以外に何を実現したいのか?
など
⑤ブランドと価格
・他の蒸溜所との差別化できるブランドや価値、意義があるのか?もしくは創造できるのか?
・販売価格もしくは販売予定価格が適正なのか?
・製造コストを適正にコントロールしているのか?そのための工夫があるのか?
など
上記の項目を中心に伺い、これら総合的に勘案してある程度の強い確信がもてないと、T&T TOYAMAのボトラーズ事業としては原酒・ニューポットの購入をすることが難しいです。
ましてや、ウイスキー投資やプライベートカスクにおいては、仮に上記項目が完璧だとしても、リスクがゼロになるわけではありません。
それなのに、リスクマネージメントをしたり、リスクを許容できない立場の方が、闇雲にウイスキー投資に手を出したり、プライベートカスクを購入されることは、プロの立場から考えると大変恐ろしいことです。
失敗しても誰も責任を取ってくれません。
損をするのも得をするのも貴方です。
そのことを念頭に置いて、投資や樽の購入について、慎重に検討されることを強くオススメします。
著者 下野 孔明 (しもの ただあき)
シングルモルト通販モルトヤマ 店主
T&T TOYAMA株式会社 代表取締役社長COO
1983年生まれ、2013年より、シングルモルト通販モルトヤマを開業。
訪れたウイスキー蒸溜所は、日本、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、韓国を合わせて100箇所を超える。
東京ウイスキー&スピリッツコンペティション
2019、2020、2021、2022、2023公式審査員
ウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル
ウイスキー文化研究所認定ウイスキーレクチャラー
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